2009年3月6日金曜日

壮年期

                 車は苦手なんだよ
ーTHE VOLVOー

最初に買ったサニーが二回目の車検を受けなければならない。娘は車検を受ける気はサラサラない。
 パパさんは「まだ乗れる」と頑張っている。

 娘はパパさんに憧れの新車を買って貰いたくて「あの手この手」で説得した。

 口説き文句は、「お父さんが国分町(仙台・東北一の飲食店街)で飲んだら何時でも迎えに行ってあげるよ」と言った。

 パパさんは「その手には乗らないよ、タクシーで充分、銀座なら話は別だがな」と素っ気ない。

 娘の決め手の台詞は、「マリオが盛岡に行く時、車酔いするのは(車が)小さいからよ」

 これにはパパさんもちょっと心が動いたらしいが、それでも「新幹線で行けば大丈夫だ」 娘は説得をあきらめて、自力で買うことにした。なけなしの貯金をはたいて、頭金にする計画でディラー(自動車販売店)のセールスマンと相談していた。

 単身赴任列車で東京から帰仙したパパさんが、寄り道をして飲んで帰ると、ママさんが起きていてテーブルの片隅に車のパンフレットがあった。

 「(娘が)買おうとしている車はこれか」と言って、しばらく眺めていたが、そのうち「寝よう、寝よう」と言って蒲団に潜り込んですぐ寝てしまった。

 翌朝は土曜日、パパさんも娘も休日である。

 朝食を済ませた後、「おい、車を見に行くか」とパパさんが言った。

 娘は何を今更、と思いながら「なんで?」と聞いた。

 「マー、いいから」と言って、ママさんと三人で出かけた。

 行った先は外車の販売代理店だった。娘は「ボルボじゃない!」とびっくり。ママさんは呆気に取られていた。お店のセールスマンの下にも置かない説明を受けながら、娘はパパさんの真意を計りかねていた。

 パパさん「これでいいんじゃないか」

 娘「エーッ!」

 ボルボの最新型で、その年Gマーク(グッドデザイン)の最優秀賞を受賞した車だった。パパさん「これをお願いしますよ、支払いはどうすればいいのかな」

 ママさんも只々、唖然としていた。

 帰りの喫茶店で、娘は「お父さん、本当にいいの」と聞いた。

 パパさんは「だって、お前は(車が狭くて)マリオがかわいそうだと言ったろう」と答えた。

 「ふーん」と言った娘は、マリオに感謝していた。

 これには訳があって、当時JR東日本はグループ企業の支援と全体の収入アップを目指して「バイ・ジェーアール」運動(JR社員はJRグループの店から買おうというキャンペーン)を展開していた。本社勤務のパパさんは、何らかの形で協力しなければと考えていた矢先に、車の買い替え問題が持ち上がった。グループ企業で新規の事業としてボルボのディラーをやっていて「どうせ(車を)買うならボルボ」と決めていたらしい。

 グッドデザイン賞も関係あった。ボルボのGマーク受賞と同時に、パパさんの手掛けた駅がグッドデザインの施設第一号に認定され表彰式に出席した時、ボルボの関係者と懇談したことも購入動機の大きな理由でもあった。

 言うまでもなく、マリオの存在が影響していたことも大きな理由だったかもしれない。

 ちなみに、パパさんは運転免許がない。

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