2008年10月24日金曜日

青年時代

                        今日は忙しくなるぞ!

ー仕事始めー

 正月が終わると、四日からパパさんは会社に出勤する。

 ママさんと娘は朝から大忙しである。朝御飯の後片付けもそこそこに、ママさんと娘は車で買い物に出かける。

 どっさり買い物袋を抱えて帰ってくる。マリオは気になってしようがない。

 「マリちゃんには前に買ってあげたでしょう」と娘が言うが、確認しないと気が治まらない。キッチンの床に広げられてある買い物袋を一つ一つ確かめる。

 ママさんと娘は一日中、キッチンで色々料理を作っている。夕方になるとママさんも気合いが入ってくる。

 「早くしないと来るわよ」

 ありったけのテーブルを並べて、料理をセットして準備完了する。

 一息ついだところに「ピンポーン」とくる。パパさんの会社の第一陣だ。

 口々に「明けましておめでとうございます」と言って上がりこむ。ママさんは一人一人応対している。

マリオは取りあえず、次男の部屋に待避する。皆、知らないおじさん達である。

 ママさんが「(パパさんが)早く帰ってくれないと困るわ」と独り言をしている。

 第二陣、第三陣と来て、その後にちょっぴり酔ったパパさんが「悪い、悪い」と言いながら帰ってきた。ビールの栓が抜かれ、全員で「おめでとうございます」と叫んで、仕事始めのホームパーティが始まる。

 総勢三十人近い人数で、社宅にしては広い十五帖の居間と隣り合った八畳の和室が、足の踏み場もないほどである。靴は玄関からはみ出している。

 マリオも様子を伺っていたが、頃合を見て会場に行く。

 若い社員が「おっ、すごい猫だ」と言っている。

 見知らぬ人間には警戒するが、座の真ん中あたりにパパさんが居るから安心できる。それに料理の匂いが気になってじっとして居られなかった。

 ママさんが「マリちゃん、駄目よ」と言っているが、美味そうな匂いの誘惑には勝てない。

 ママさんは、マリオの毛がお客さん達の洋服に付くのを心配していた。お客さんに「すみませんネー」と謝っている。

 マリオはお客さんの間をすり抜けながら、あちこちで料理を貰って満腹になったところで退場する。パーティは夜の十二時近くまで続いて、お客さんは三々五々に帰って行く。

 パパさんはすっかり酔って、早々に寝てしまう。

それからが大変である。ママさんと娘は後片付けで夜中の三時ぐらいまでかかってしまう。

 パパさんが本社転勤になるまで、毎年正月明けの定例行事だった。

 

2008年10月19日日曜日


ーモンローウォークー

 猫語の代表的なものは「ニャーオ」である。語調によっていろいろな意味がある。「ゴロゴロ」と喉を鳴らすのは、気嫌のよい時か気持ちの良い時だ。

 警戒する時や気分を害した時は「フーッ」と喉から声を出す。

 闘争する時の「シャーッ」は、相手を威嚇するために使う。体を蛇のように丸めた体形でするので、猫は蛇の親戚のように言う学者がいるが、定かではない。

 常に声を出して訴えれば、一緒に住んでいる人間ならば大体の意思は通じるが、マリオに限らず犬に比べて猫類は無口だ。そのために結構態度で示す場合が多い。

 こちらが必要な時は鳴いて訴えるが、いちいちニャーニャー鳴いていられない。

 猫のボディランゲージは犬のように派手さがないために、その意思を汲むためには注意を要する。マリオのボディランゲージの手段としては、長く太い尻尾を有効に使う。

 幼い頃からティールコミュニケーションが得意だったが、家出した時尻尾に負った傷がしばらく完治しないため苦労した。

 仙台に引っ越してから、娘が大学の友達から評判のよい獣医院を聞いてきて2回の通院で治ってしまった。

 尻尾のかたちで気持ちを伝える。伝える必要がなくても自然とかたちになる場合もある。気分の良い時は直径5センチぐらいに尻尾が膨らんで、歩くときは垂直になる。大名行列の先頭を行くぼんぼりみたいなかたちだ。

 普段は床を擦らない程度に尻尾を下げて歩く。これがマリオにとっては一番楽な歩行姿勢なのだ。

 垂直の時は相当尻尾に力を入れないといけない。それでも嬉しさを示すために太く真っ直ぐにして歩く。

 後ろから見ると、モンローウオークのように尻を左右に振りながら歩くらしい。娘はケラケラ笑うが、気にはしない。

 名前を呼ばれた時は尻尾の先を振る。起きていても、うとうと寝ている時も同じ動作をする。うたた寝をしていると、娘は退屈しのぎに名前を呼ぶ。その度に尻尾の先を最小限に振って、聞こえていることを伝えるのだが娘はしつこく呼ぶ。

 猫の生命線は寝ることだということを理解していない。煩わしくなるが「マリちゃん」と呼ばれると尻尾の先っぽが無意識に動いてしまう。


                     尻尾を上げて歩くって難しいんだ