2008年8月24日日曜日

青年時代


―ライセンスー

マリオが家族の一員になってもう少しで二年になろうとしていた。家族はマリオが居るのは当たり前で、家族構成の重要な位置を占めていた。子供たちは勿論、ママさんもマリオ抜きでは考えられない生活感覚になっていた。

一つだけママさんの気がかりはマリオがペット屋から連れて来た時、娘が「血統書付きなんだよ」と言っていたことだった。血統書は後から届くと思っていたが、二年近く経ってもその気配はない。

ママさんはパパさんに言った。

「お父さん、マリオの血統書は何時来るの?」

「あっ、そう言えば、ペット屋はすぐ届けると言ってたナー」

パパさんはその日に電話した。ペット屋も忘れていましたと言って一ヵ月後に、晴れてマリオの血統書が届いた。身体的な特徴から詳しく表現された血統書は額に入れられて娘の部屋に飾られた。

休日に帰ったパパさんが血統書をまじまじと見て気がついた。性別がFEMALE(雌)だった。パパさんはママさんと娘にそのことを言った。

(血統書を)「取り替えて貰うか」

ママさんと娘は「そんなこと、どっちでも良いわ」と言った。

ママさんと娘にすれば、マリオは去勢したから雄でも雌でもない存在だが、それ以前に家族としての存在感が強く性別はどうでも良かった。

ママさんと娘は性別よりマリオが紛れもなく正統なペルシャ猫であるというステイタスが大切だった。

翻って、パパさんは国鉄時代に比較すると一人六役の仕事をこなしながら、国家資格取得に熱心である。決してライセンスマニアでないが、訳があった。官は組織依存で仕事ができるが、民間は社員個々の能力が問われる。そのためパパさんは部下たちに資格取得を熱心に督励している。

督励するだけだとインパクトがないと思ったパパさんは自ら率先して受験する。その結果として合格する。

一級建築士は国鉄に入ってすぐに取ったらしいが、マリオが来てから技術系としては最難関の技術士も取った。国鉄時代は無視していたライセンスに次々とチャレンジして、部下たちへ模範を示す積りが両手で数え切れない資格保持者になった。

社外の人から「お忙しいのに?」と不思議がられるらしいが、パパさんはけろっとして「試験は集中力ですよ」とさりげなく応えている。

マリオは生まれついての正当ペルシャ猫であるが、猫社会ではあまり価値がない。

飼っている人間の満足感が優先するライセンスなのだ。


〈うわさの大工〉