2009年3月21日土曜日

猫に小判

ー猫に小判ー

 パパさんの趣味はあまりパッとしたものがない。国鉄に入社して最初の職場の歓迎会で、趣味はと聞かれて悩んだ揚げ句、「酒と喧嘩かなー」といって度肝を抜いたらしい。

 高校の時、ラグビー部に入ったが進学のためと称してクラブ活動は熱中しなかった。

 読書は大好きであるが、それ以外これといって自慢できるレベルのものはない。やれることは何でもやるが深く追及しない。特に勝負がかったのは駄目だ。
 向上心がないと言えばそれまでであるが、夢中にならない。囲碁・将棋、俳句・短歌、写真・絵画、日曜大工等と一見幅広いが、いずれもたしなみの範囲を超えることはない。

 そんなパパさんがゴルフをやる。非常に意外であるが、パパさんがゴルフをやる理由は二つある。
 
ひとつはつき合いである。
もうひとつが振るっている。ハーフタイムに飲むビールが天下一の美味だという理由で、朝早くから出かける。

 ちなみにパパさんのゴルフの腕前は二十年前に始めた時と同じスコアーなそうだ。道具は三回ほど買い換えているが、腕は変らない。

 パパさんは「ゴルフは自己嫌悪のスポーツ」だといっているが、自己嫌悪に陥らない程度まで努力すれば良いと思うけれども、その気はとんとない。

 ゴルフから帰ってきても、道具の手入れはしない。出かける前日に、球の数を確認するぐらいだ。
 ゴルフバッグのポケットから白い球を出して布巾で一個一個ふく。
 マリオも手伝いたくなる。手でヒョイとするとコロコロっと転がる。次々とヒョイをする。パパさんは「おい、おい」と言うが、かまいはしない。
 部屋中に球が転がって面白い。散々遊んで、飽きたところでお昼寝タイムになる。

 「しょうがないな」と言って球を集めながら、マリオの真似をしてヒョイと球を転がしている。ひょっとしてパターの感じのヒントを掴んでいるのかもしれない。

 そんなパパさんが、所属部署のゴルフ大会で優勝した。二十数年来のゴルフキャリアで生まれて初めての快挙?である。

 ママさんは(そんなことがあるわけないと思っているから)全然信用していない。

 「賞品は何なの?」

 「ブロンズの像だよ」

 「なぁーんだ、つまんない」

 家庭用品を期待しているので、ママさんにとってブロンズ像は猫に小判である。

 パパさんも何故優勝したかわからない。

 強いて原因をあげれば、上野駅から始発の特急電車の中で部下にご馳走された銘酒が効いたかなと思っている。

 他の部署の社員が「○○部はゴマすりゴルフをしている」と酷評したらしいが、パパさんは生涯に一度だけの栄光に酔いしれていた。

                    優勝のブロンズ像