2008年7月19日土曜日

青年時代


ープライドー

 家出から帰った翌日、早速ママさんと娘に獣医院へ連れて行かれた。前日シャンプーして貰ったとはいえ、体中傷だらけである。特に、首と尻尾の傷は相当深かった。

 獣医はマリオを見るなり「オヤ、放し飼いにしているんですか」と聞いた。

 ママさん「イエ、室内なんですが、二週間ほど逃げて昨日帰ったんです」

 獣医「アー、人間と同じ年頃ですからね」

 「それにしてもこの傷はひどいね」

 そんな会話を聞きながら、マリオは慎重にしていた。

 一通り治療が済んで、獣医がママさんに話しかけた。

 「この猫ちゃんは血統書つきですか」

 「はい」

 「子猫を増やすんですか」

 「イイエ」

 「増やさないんっだったら、去勢した方が良いですよ」

 ママさんはにわかに理解できず「はぁー?」と言った。

 獣医「避妊手術ですよ、避妊!」

 ママさん「……」

 獣医「そうした方が、盛りになっても外へ出ようとしませんから」

 ようやく意味が判ったママさんは「今日ですか?」と聞いた。

 獣医は傷が治ってからが良いと答えたため、その日は無事に帰ることができた。

 週末にパパさんが帰宅して、家族会議が始まった。ママさんと娘は避妊派である。長男と次男はノンポリを決め込んでいる。

 パパさんは折角の血統書付きの種を放棄するには若干抵抗があったが、マリオの脱走中に娘の落ち込み様を見ているだけに、やむを得ずとの結論になった。

 かくして「去勢裁判?」は実行の決定が下された。

 半月が経過して、ママさんが朝から普段以上にてきぱきと家事をこなしてから、

 「さてと、マリちゃん、病院に行くよ」と言った。バスケットに入れられて獣医院に向かった。傷も回復していたマリオは病院に行く意味を理解しかねていた。


 獣医院の待合室で不安を感じたマリオは、何となく「フーっ」と威嚇した。

 これから何が起こるか判らないが、避妊手術を受ける前、マリオのプライドが本能的に行動させたのかもしれない。


〈うわさの大工〉