2008年6月12日木曜日

育ち盛り

ーメロン大好きー

 マリオの食事は、ペット屋さんに教えられた乾式のペットフードだったが、娘がスーパーで「こっちが美味しそう」と言って缶詰を買ってきてから変わった。買い置きの乾式フードはたまに貰ったがすぐに品切れになった。

 定食は缶詰であったが、家族の夕食の時は娘の横に座って、おかずを分けて貰った。

 ママさんに「行儀が悪くなるからやめなさい」と叱られながらも、娘は必ず何かをマリオにあげた。

 特に、デザートやおやつタイムは楽しみだった。娘は何でも食べさしてくれた。メロン・イチゴ・カボチャ・栗・サツマ芋・トマト・トウモロコシ、アンコ、ケーキ、蟹、エビetc…。

 ママさんはたまにレバー、ささみを煮てくれた。大好物である。

 パパさんは「あまり、美食させると病気になるぞ」と注意したが、無視された。

 そのパパさんも推奨したのがメロンである。たまにママさんと買い物にいくと何はともあれメロンをバスケットに入れて、「高いのよ」と言うママさんの苦情を無視した。

 そんなこともあって好きな食べ物の中でメロンは大好物だ。

 家族が「マリオが寝ているうちに食べよう」と言って食べていても、メロンの甘酸っぱい匂いで目が覚める。

 「クンクン」と鼻をピクピクさせて居間にいくと案の定、大好きなメロンがある。

 最初は実を貰って、それから皮を貰う。ヤスリ舌でメロンの皮を舐めると至福の味がする。

2008年6月10日火曜日

育ち盛り

                   どこをさがしてんだよ!


ーかくれんぼー

 家族の一員になって、すこぶる居心地がよいと思っているが、マリオには不満が一つある。それは外出禁止である。人間にも門限とかいろいろ制約があるらしいが、猫に野外活動をさせないということは、子供に遊ぶことを禁じることと同じ以上の意味をもつ。

 隣のシャム系のミューちゃんという短毛猫は、外出自由の身分でいつも羨ましいと思っている。

 首輪をつけられないと外に出られない我が家の庭まで、ミューちゃんは自由に闊歩している。それもテラス戸越しのマリオの目前で堂々とやられる。

 ミューちゃんだけなら許せるが、見知らぬ同族諸君も時々庭に入り込む。

 その度マリオはささやかな縄張りである庭にマーキングしなければならないと居間のガラス越しに地団太を踏む。マリオに自由外出のチャンスが全然ない訳ではないが、一日十四時間の睡眠が妨げになっている。

 ママさんをはじめ家族は出入り自由なので、出入りのための戸の開閉は頻繁に行われるが、ほとんどマリオの睡眠中を狙って出入りしている。

 たまたまマリオが起きていると、首輪をつけて庭に放す。そして家族は戸を開けっ放しにして自由に出入りする。

 住んでいる町内のわずか五百メーター程度であるマリオの行動半径は完全に制約されている。

 マリオは猫が猫らしく生きられる環境を求めて、自由に外出できる機会を狙っているが実現はなかなか難しい。

 そんなマリオにも唯一猫らしい本能を満足できる空間があった。二〇帖の広さの地下室である。そこは雑然とした倉庫で、色々なガラクタが置いてある。

 次男が幼かった頃、夏の暑い時は近所の友達と三輪車遊びをしたという広い地下室がマリオのお気に入りの空間である。

 漬物の樽や段ボール、パパさんの日曜大工の道具、シーズンオフで使わない電気器具や道具、古くなった家具やとにかく混沌としているのが大好きだ。高窓から外を観察すると実に面白い。地面すれすれなので、誰もマリオが見ていることに気がつかない。

 退屈な時は地下室に遊ぶ。

 棚もあって物陰に隠れていると、マリオの所在が分からなくなる。娘は慌てて家の回りを探したりしているが、頃合を見て姿を見せてやる。

 「どこに行っていたの、あっ、地下室だな」と言いながら、「さっき見たんだけどな」とつぶやいている。

 別にいじわるする気はないが、「ここに居るよ」と知らせる必要はないと思っている。

〈うわさの大工〉

2008年6月8日日曜日

育ち盛り

                   心配だな、がんばって!

ー受験勉強ー

 日中と夜寝るまでの時間はほとんど娘の部屋で過した。娘は中学三年の新学期に転校したため、学校の友達やカリキュラムの違いもあって高校の受験勉強には悪戦を強いられていた。ママさんは、そんな状態であるためペット(犬でも猫でも)飼育は反対だった。

 そこにマリオ登場である。

 学校でトラブルがあった時や東京の友達など思い出す時は、マリオが娘の慰め役だったが、それ以上に娘は念願のペット実現で(マリオに)夢中になっていた。勉強も手につかず、マリオにつききっきりである。

 マリオがベッドに寝ていると、一緒に横になってあどけないマリオの寝顔を見続けていた。そしてそのまま一緒に寝込むことも度々あった。

 東京の中学時代はマァマァの成績で心配なかったらしいが、盛岡の受験事情は東京と異なるため、早い機会にペースを取り戻して欲しい、というのがママさんの切実な願いだった。

パパさんに週末になると、ママさんから苦情が呈される。

 「お父さん、(娘が)マリオにべったりで勉強してないのよ、何とか言って頂戴!」

 「………」無言のパパさん。

 学期末の進学相談の結果はかんばしくなかった。担任教員に志望校が難しいと言われた。 又々、ママさんの心配がつのる。

 「お父さん、どうにかしなくちゃ」

 「よし、判った」と言ったパパさんの打った手は、家庭教師の手配だった。女子大生のアルバイトがやってきた。週に二回の受験勉強の指導時間は立ち入り禁止である。

 マリオは性格的に、家族以外はあまり親しみを持てなかったので、知らないお姉さんが来ている娘の部屋は敬遠した。

 その時は居間にいくか、長男の部屋で訳の判らない賑やかな音楽を聞くか、次男のところに行ってファミコンの伴奏を聞きながら寝そべっていることにした。

 パパさんも、中学の中途半端な時期に転校させた娘が心配で、週末になると勉強を応援した。時間を決めた模擬試験みたいな勉強だった。その時はマリオも娘の部屋を覗くことがあった。そろそろと入ってベッドに上がって見ていると、「マリちゃん、難しいよ、教えて」と言われる。返答に困ってしまう。

 色々いきさつがあって第一志望は無理だったが、市内の女子高校に入学した。パパさんも、四月から転任予定の仙台の高校を打診したらしいが、娘の希望で盛岡に落ち着くことになった。

 娘は高校生になってからは元気を取り戻して、通学している。

 マリオのせいではないのだが、第一志望を逃したのが残念だったらしいパパさんは、

「マッ、大学の時頑張れば良いか」と納得していた。

 〈うわさの大工〉