2008年4月10日木曜日

育ち盛り

ー雀ー



 半年たった頃、ママさんのママさん即ちお祖母ちゃんだが、自分の庭で雀を捕まえてくれた。庭に穀類を蒔いて、ザルを木の棒でつっかいにして、その棒を紐で引いて捕える方法でまことに原始的な捕獲法である。
 それはそれは根気のいる作業だ。何度も何度も失敗しながら、とうとう捕まえた。さらに飛んで逃げないように羽を切った。
 なにか「舌切り雀」の物語を彷彿とさせるが、かわいい孫娘のマリオのためだ。
 お祖母ちゃんは単純にたまに孫娘が連れてくるマリオの玩具代わりの積もりだったが、マリオにとっては生まれて初めて狩猟本能をくすぐる対象になった。
 

 日本が現在のように豊かでなかった時代の飼い猫は、飼い主から貰う餌よりも、自分で捕まえる餌が主食だった。特にネズミは大好物であった。人家に害を及ぼすネズミを捕獲する猫は、人間にとって有り難い存在だったが、いつの頃からか生活が豊かになり猫はペットとして愛玩の対象に変貌した。
 ペルシャ猫のマリオにも、遠い昔の猫族の狩猟本能が残っていた事は言うまでもない。お祖母ちゃんの捕まえてくれた雀を捕まえては放し、爪でじゃれては様子を見る。たまに軽く噛み付いて反応を試す。
 とにかくマリオには猫としての本能をくすぐられた一日になった。
 毛は根元からピンと立って体も普段の倍くらいに膨らんで、マリオは闘争心を掻き立てられた。お祖母ちゃんの仏間のある部屋は、雀の抜けた羽だらけになった。
 かわいそうな雀は、マリオの波状攻撃にさらされて息も絶え絶えになっていた。
 さすがに、食べることはなかった。普段の美食がそうさせなかった。
 獣類は、小さい頃は母乳を飲み、乳離れをすると親の獲物を分けて貰いながら狩りの練習をする。狩りが一人前になるタイミングで親離れをして独り立ちしていく。
 しかし、現代のペットとしての獣類(特に猫)にはそのような機会が与えられないケースが多い。逆に、ネズミを見ると逃げ出す猫もいるという。
 そのような状況でマリオの体験は貴重なものであった。
親代わりのお祖母ちゃんとも言える。

 お祖母ちゃんは雀のほかに、トンボとか、大きめの蛙を捕まえてくれた。
 蛙の嫌いな娘はお祖母ちゃんに抗議しながら、「マリちゃん、止めなさい」と叱っていたが、マリオは意に介せずピョンピョン跳ねる蛙に夢中になっていた。