2008年5月24日土曜日

育ち盛り

ー優勝旗ー

 次男は野球が大好きだ。

 長男も中学時代に野球部に入り、勉強そっちのけで白球を追いかけていたが、中学二年の時、パパ

さんの東京転勤で転校し、レギュラー選出に漏れたため、高校・大学はラグビーに転向してしまった。

 次男は東京へ引っ越して、兄の使った道具をいじっている内に野球に興味を持ち、日曜日にパパさん

と社宅の空き地でキャッチボールをしていたそうだ。

 小学校入学と同時に都区内のリトルリーグの少年野球を始めた。

 素質があったので四年生には内野を守ったり、たまにピッチャーもしていたらしい。

 後楽園でリトルリーグの大会に出たこともあるらしい。

チームの監督に「N君は甲子園に行ける素質がある」と褒められたそうだが、盛岡に転校してからは

地区の少年野球に参加した。

上背もあり、六年生になるとピッチャーで四番だった。そして市内の地区対抗戦では、あれよあれよと

勝ち進んで決勝戦まで行った。

 決勝戦はお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、パパさん、ママさんのファミリー総出の応援だった。

 パパさんが興奮して言うことには、バッタバッタと三振をとり、おまけにホームランまで打ってしまったと

いう。

 結果として、次男は予想もしなかった優勝旗を持って帰って来た。

 「どうだマリオ、凄いだろう」と鼻高々の次男。

 普段は、ファミコンにベッタリで、いつもママさんのお小言を貰っている次男のイメージチェンジだ。

 優勝旗は一日ずつ選手の家に貸すそうで、次男は第一号で借りてきた。

 白い布がいっぱいぶら下がって、見ているとじゃれてみたくなる。

 次男はマリオの気持ちに気がついたのか旗を横にして、目の前でゆさゆさと揺すってくれた。マリオは思い切り飛びついた。

汗臭かったがマリオは嬉しかった。


ートイレー

 ママさんが清潔好きで、よくトイレの掃除をしてくれる。南面のテラスに乾かしてから新しい砂を入れ

て、それは快適な排泄環境になる。日だまりの匂いがしてとても気持ちが良い。

 たまにだが、ママさんはトイレを乾かしていることを忘れて買い物に出かける。

 最初の頃はママさんが帰るまで我慢したが、ある日、日が暮れてもママさんが帰ってこなかった。我慢

の限界を過ぎて何とか始末する必要にかられたが、愛用のトイレが庭にあるためどうすればよいか判

らずにウロウロしていたら、人間のトイレの戸がちょっと開いていた。

 専用のくぐり戸がないため入ったことのない部屋だったが、手でくぃっと開けてみると、専用トイレの数

倍のスペースで何となく落ち着くというか、所用を足すには適当な感じがした。白い腰掛け(便器)のよう

なものに乗って見たが、座りが悪い。

腰掛けの裏側へ回って、床の片隅で具合よく排便した。専用のトイレなら臭い消しと便を隠す砂があ

るのだが、床が板のため砂代わりに床を二三度掻いて済ませた。まことに簡便である。

 ママさんが帰って来て、「ニャーオ」と出迎えた。

 「あ、マリ、遅くなって御免ね」といってキッチンに向かった。

 子供たちが学校から帰って来て、最初にトイレに入った娘が言った。

 「お母さん、何かトイレが臭いよ」

 「何言ってんの、今朝お掃除したのよ」

 「だって、臭いもの」

 ママさんは「おかしいわね」と言いながら、トイレを見にいった。

 「何の臭いのかしら」と独り言をしながら、便器の後ろの片隅にある二~三センチの異形物を発見した。

 「あれ、マリオがウンチしている」と言いながら、テラスに乾かしているマリオのトイレを思い出した。

 ママさんは怒るどころか、マリオをほめたり、謝ったりした。

 揚げ句に、「マリちゃんは偉いネー」と頭をなでてくれた。

 マリオはこの家に来た頃のママさんの厳しさを考えると、まずいことをしたと思っていたが思いがけず

ほめられて、ひょっとして良い事をしたのかなと錯覚せざるを得なかった。

その後も気が向くと専用トイレを使わずに、人間のトイレをちょくちょく利用した。

 その都度、ママさんは「マリちゃんのトイレは地下室にあるのにねー」と独り言をしな

がら跡始末をしてくれた。そしてマリオを叱る事はなかった。