マリオの習慣
夕暮れ時。
トイレで用を足し終え、廊下にでた。
ふと玄関の方を見ると、マリオがベランダにちょこんと座っていた。
居間のドアに、装飾としてついているガラスから仄かな西日が白猫を照らす。幻想的な光景であるが、どこか憂いを帯びている。
またか。軽い溜息をつく。
今日もまた、マリオの癖が出てしまったようだ。
白猫の隣へと歩を進め、屈む。
頭を撫でてやると、一瞬ピクッと動き、すぐに踝(くるぶし)にすり寄ってきた。
しばらく顔を擦りつけた後、また先ほど同じ体勢に戻った。
マリオの癖は、嫁に行った娘を待つことだ。
毎日決まった時間に、こうやってベランダに座って、仕事から帰る娘を待っているのだ。
もう、待つ必要なんてないのに。
「なあ、もう居間に行こう?」猫を諭すように言う。
「待ってても帰ってこないんだから。いい加減判ってくれよ」
白猫は、抱き上げようとすると、暴れて拒んだ。
意地でも待つつもりらしい。
どうして待つのをやめないんだろか。
お前はもう娘の帰りを待つ必要はないんだよ。
だって、娘は……。
ああ、やっぱりこいつにはわからないんだ。
人間の事情なんて……。
なあ娘、お前は、大分こいつに慕われてたんだな。
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