四月に入ったら何やら騒々しい。一人娘の嫁入りでママさんは忙しそうにしている。
マリオには嫁入りの意味が判らない。娘は時々「マリちゃん、元気でね」と言って涙ぐんでいた。一番頼りにしている娘が居なくなるという現実も理解できない。
結婚式の前夜。
娘は、「マリちゃん、お別れだよ」と言って涙をこぼした。
そして翌日、マリオと次男を残して全員居なくなった。
次男も翌朝早く、姉の結婚式に出席するため東京に出かけた。
夜遅くなって家族全員とお客さん二人(パパさんの妹と友人)が帰ってきた。しかし、全員ではなく、大事な人間が一人欠けていた。娘である。
翌日、お客さんも帰って普通のペースの生活に戻った。しかし、何かがおかしい。いつもなら、長くても二~三日で戻る娘が帰って来ない。
夕食後、居間のソファの背にライオン座りで玄関を見張る日が続いた。一週間過ぎても娘は帰ってこない。
以前に似たようなことがあった。家族全員が十日ほど居なくなった時(パパさんの退職記念でヨーロッパ旅行)があった。
その時は、時々家に来ていたママさんの友達であるおばさんから朝と夕方に餌をもらった。
だだっ広い社宅にひとり(一匹)で留守番は大変だった。ソファで待つのはまどろっこしくて、玄関のマットで外の物音に耳を澄ましながら家族の帰りを待った。
そのまま玄関で寝ることもあった。
十日目の夕刻、聞き慣れた足音と声が、玄関の外から聞こえた時の嬉しさは表現のしようがなかった。
玄関の戸がガチャガチャという鍵の音で開いて、娘が顔を出した。
「マリちゃーん!、マリちゃん、ごめんね、寂しかったでしょう」
その声を聞いた瞬間、嬉しさをうまく表現できずに、家中を走り回った。思い切り走って喜びが一通り治まったところで、家族全員から声が掛かった。
ママさん「マリちゃん、いい子だったねー」
パパさん「マリオ、おいで」
次男「マリ、どれ、遊んでやるよ」
十日振りで家族に会えて嬉しくて興奮が冷めない。体中の毛が逆立って、長い尻尾は太く直立していた。
今回は、その時とだいぶ様子が違う。
娘の部屋は空き室同然で、(娘の)物がほとんど失くなった。
日々に(娘の)匂いが消えていくのである。
家族も(娘が)居ないのは当然という態度であるが、マリオには飼い主が居なくなったも同然だった。
帰りを待つマリオ 娘が居なくなったわけが理解できないマリオは孤独感がひしひしと強くなるのを感じていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿