2008年7月11日金曜日

青年時代



ーWANTEDー

 マリオが家出をしている間、家では家族総出(パパさんは単身赴任のため週末のみ)の捜索が続いていた。家族全員、日中でも外を歩くと白い猫が居ないか、と目を光らした。

 二週目の週末、帰宅したパパさんが娘と捜索ポスターを作った。

 ポスターを昼過ぎに自宅の前や公民館、近くのスーパーの掲示板などに貼り出して、夕食後、猫の夜行性を頼りにパパさんと娘は懐中電灯を持って徹底的な捜索行動にでかけた。捜索は深夜十二時まで続いた。

 公園で一匹の猫にあった。娘が頭を撫でてやると気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 娘はその猫にお願いした。

 「ねー、マリちゃんがいたら、帰るように言って」

 翌日の日曜日も朝から捜索開始。家出をしてから二週間以上経っていた。家族全員なかば諦めながらの探索である。

 一日中、町内を探しても見つからない。日が暮れたので家族全員、重い足を引きずって取りあえず家に戻る。

 夕食を済まして、庭をぼんやり見ていた娘が悲鳴に近い声をあげた。

 「アッ、マリオだ」

 パパさんが「何を言っているんだよ」と言いながら娘の側に行った。

 マリオは庭の木の根元にしゃがみ込んでいた。

 「アッ、マリオだ」

「皆、来い」

 「アッ、本当だ」

 家族総出の捕獲作戦が開始された。

 パパさんは裏庭、ママさんはテラス、長男、娘、次男の三人は庭に面する道路とマリオのいる庭を取り囲んで万全の体制がとられた。

 パパさんは昆虫網まで取り出した。

 ところが、マリオはいとも簡単に娘に捕まった。逃げる意思など、とんと無かったのだ。首や尾の傷の痛みに加えて、背に腹がつきそうな空腹の中で、幼い頃の我が家を思いだし必死の思いで辿り着いたばかりだった。

 「マリちゃん、よく帰ってきたねー」と言って、ママさんと娘は涙を流した。

 ママさんに体を拭かれながら、喉をコロコロ鳴らした。

 娘が「マリちゃん、お腹が空いてんだろう、お食べ」

 食べ慣れた懐かしい味のペットフードが腹中に漬みた。

 満腹になったところで、次男が「お母さん、マリオが臭いよ」と言った。

 「そうだ、シャンプーしなくちゃ」ママさんと娘に浴室に連れて行かれた。

 嫌いなはずのシャンプーも心地良かった。 ドライヤーで乾かして、首と尾の傷に軟膏を塗って貰った。

 ソファーに敷いて貰ったシャンプー専用の電気座布団の上に座ると、ポカーっと暖かくて満腹感と安心感と疲れがどっと出てきた。

 ママさんと娘が「明日、病院に連れて行かなくちゃーね」と話している。会話を聞きながら、マリオは夢の世界に吸い込まれて行った。

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