ーマリオの憂鬱ー
慌ただしく引っ越しをした。今まで住んでいた社宅から距離にして三百メーターくらいなので、ほとんど梱包もしない。次男に大学の友達数人を集めさせて、アルバイトを兼ねた引っ越しで運送屋にも頼まないユニークな引っ越しである。
トラックをレンタルしたため、結果的には運送屋に頼むより高くついた。パパさんは次男の友達のミニ奨学金だと割り切っている。
ともかく、新しい出発である。マリオは二度目の転居で、猫にしては移転が激しい方だ。猫は生活環境が変わることが一番こたえるが、家族全員一緒なのでマリオは気にならない。とはいうもののひとつだけ欠点があった。
今度の家は四階にあって、土がないのが大変である。幼い頃から、庭付きで育って前の社宅も一階だったから首輪をして前庭に放してもらった。今度のマンションではそのようなことは期待できない。
ベランダがあるが、今まで上ったことのない高さである。目の前の竹藪にいろんな鳥が飛んで来ることくらいが、日々の変化になる。
家の広さも前の社宅より一回り小さい。どうやら引っ越しする度に家が狭くなる。
パパさんはマンション購入で思わぬ大出費になり苦虫顔だが、ママさんはあこがれのマンション生活でルンルンである。
住んで一か月ほど過ぎて、マリオは体調不良をかこっていた。
やっぱり土に接しないのは具合が悪い。
盛岡の家でも、JRの社宅でも庭があってマリオの好きな青草があった。マンションにはそれがない。
長毛の猫は毛並みを揃えると、どうしても毛が口に入る。
それが胃の中で毛玉になる。
そうなると吐き出さなければならないが、青草を食べないと吐き出しにくい。
そのためもあってか、体の調子がよくない。
一度、開いていた玄関から外に出てみたが無表情な通路があるだけで、どこからか人が突然現れそうで、慌てて家に引き返した。
ママさんが気づいて、前に住んでいた社宅の庭から青草を取ってきてくれた。マリオは新鮮な青草がこんなに美味いものかと改めて感じた。
娘もペット屋から猫の好きな草の種を買ってきてくれるが、プランターに植えて食べられるまでには二週間ぐらいかかる。
このままマンション生活が続くかと思うとマリオは憂鬱だった。
新聞を眺めるマリオ
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