ー進学問題ー
娘の高校受験と同時並行で、長男も大学受験の勉強中だった。高校三年の現役受験は全て失敗したため、盛岡で再挑戦を期していた。
幼いマリオにとって、あちらもこちらもという訳には行かず専ら娘の勉強を見守った。
それでも、家に誰も居なくなると、長男の部屋も訪問した。本が広げてあって部屋中に紙屑や脱ぎ捨てたシャツ、靴下の類いが散乱していた。正に居場所もないという状態である。
そんな雑然とした雰囲気がマリオは気にいっていた。空いた場所がなくても本の上だろうが、シャツの上だろうが寝そべる。長男も心得て、何も言わないで無視した振りをする。
たまに「マリオ、邪魔だよ」と言って、足元の本を引き抜かれることもあったが、お互い気にしない。次はシャツか別な本の上に座れば良い。
長男は、当時、国鉄で新幹線の駅とかホテルの建設に携わっていたパパさんと同じ技術者を目指していた。
東京の高校の頃はまじめに学校に行かなかったらしく、理系の大学を目指すにはハードルが高すぎた。“後悔先に立たず”だった。
正月明けになって、東京、仙台と四校ぐらい受験した。結果は仙台の大学だけが合格で東京の大学は全敗。
ママさんは(一校だけでも受かって)「アー、良かった、良かった」と喜んでいた。
ところが、長男は東京の大学が諦め切れず、仙台にはサラサラ行く気はなかった。
「お母さん、来年もう一度東京の大学を受けたいんだけど」
ママさんは仰天した。
「黙って、受かった所に行きなさい」と必死に説得する。
「いや、やっぱり東京の○大に入りたい」ママさんはお手上げである。「それじゃ、お父さんに相談しなさい」
週末、パパさんと長男の会話。
パパさん「仙台に行くのか?」
長男「あのー、来年もう一度東京の大学を受けたいんだけど」
パパさん、無言。しばらく、間を置いてから、
「よし、もう一回やって見るか。その代り、来年だけだぞ」
「ウン、いいよ」
かくして、また一年間、長男の勉強しない大学浪人二年目が始まった。
訪問相手が減って寂しくなるはずだったマリオは、素直に喜んでいいやら複雑な心境だった。
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