ーかくれんぼー
家族の一員になって、すこぶる居心地がよいと思っているが、マリオには不満が一つある。それは外出禁止である。人間にも門限とかいろいろ制約があるらしいが、猫に野外活動をさせないということは、子供に遊ぶことを禁じることと同じ以上の意味をもつ。
隣のシャム系のミューちゃんという短毛猫は、外出自由の身分でいつも羨ましいと思っている。
首輪をつけられないと外に出られない我が家の庭まで、ミューちゃんは自由に闊歩している。それもテラス戸越しのマリオの目前で堂々とやられる。
ミューちゃんだけなら許せるが、見知らぬ同族諸君も時々庭に入り込む。
その度マリオはささやかな縄張りである庭にマーキングしなければならないと居間のガラス越しに地団太を踏む。マリオに自由外出のチャンスが全然ない訳ではないが、一日十四時間の睡眠が妨げになっている。
ママさんをはじめ家族は出入り自由なので、出入りのための戸の開閉は頻繁に行われるが、ほとんどマリオの睡眠中を狙って出入りしている。
たまたまマリオが起きていると、首輪をつけて庭に放す。そして家族は戸を開けっ放しにして自由に出入りする。
住んでいる町内のわずか五百メーター程度であるマリオの行動半径は完全に制約されている。
マリオは猫が猫らしく生きられる環境を求めて、自由に外出できる機会を狙っているが実現はなかなか難しい。
そんなマリオにも唯一猫らしい本能を満足できる空間があった。二〇帖の広さの地下室である。そこは雑然とした倉庫で、色々なガラクタが置いてある。
次男が幼かった頃、夏の暑い時は近所の友達と三輪車遊びをしたという広い地下室がマリオのお気に入りの空間である。
漬物の樽や段ボール、パパさんの日曜大工の道具、シーズンオフで使わない電気器具や道具、古くなった家具やとにかく混沌としているのが大好きだ。高窓から外を観察すると実に面白い。地面すれすれなので、誰もマリオが見ていることに気がつかない。
退屈な時は地下室に遊ぶ。
棚もあって物陰に隠れていると、マリオの所在が分からなくなる。娘は慌てて家の回りを探したりしているが、頃合を見て姿を見せてやる。
「どこに行っていたの、あっ、地下室だな」と言いながら、「さっき見たんだけどな」とつぶやいている。
別にいじわるする気はないが、「ここに居るよ」と知らせる必要はないと思っている。
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