2009年5月30日土曜日

忠猫マリオ

マリオの習慣


夕暮れ時。

 トイレで用を足し終え、廊下にでた。

 ふと玄関の方を見ると、マリオがベランダにちょこんと座っていた。

 居間のドアに、装飾としてついているガラスから仄かな西日が白猫を照らす。幻想的な光景であるが、どこか憂いを帯びている。

 またか。軽い溜息をつく。

 今日もまた、マリオの癖が出てしまったようだ。

 白猫の隣へと歩を進め、屈む。

 頭を撫でてやると、一瞬ピクッと動き、すぐに踝(くるぶし)にすり寄ってきた。

 しばらく顔を擦りつけた後、また先ほど同じ体勢に戻った。

 マリオの癖は、嫁に行った娘を待つことだ。

 毎日決まった時間に、こうやってベランダに座って、仕事から帰る娘を待っているのだ。

 もう、待つ必要なんてないのに。

「なあ、もう居間に行こう?」猫を諭すように言う。

「待ってても帰ってこないんだから。いい加減判ってくれよ」

 白猫は、抱き上げようとすると、暴れて拒んだ。

 意地でも待つつもりらしい。

 どうして待つのをやめないんだろか。

 お前はもう娘の帰りを待つ必要はないんだよ。

 だって、娘は……。

 ああ、やっぱりこいつにはわからないんだ。

 人間の事情なんて……。

 なあ娘、お前は、大分こいつに慕われてたんだな。

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