ー留守番ー
車を買ってから、やたらと外出することが多くなった。
特にママさんは娘の運転で重宝しているようだ。車を買う時、娘がパパさんに約束したことを、自分への約束にすり替えて「あそこに乗せてって」とか、出先のデパートから「迎えにきて頂戴」とフルに利用していた。
夏休みを前に、ママさんの実家に行く相談をしていた。娘は「皆で行こう」と提案している。マリオは(勘弁して欲しいナー)と思っている。パパさんが夜遅く帰ってきて娘が聞いた。
「お父さん、今度の金曜日盛岡に行かない」
「駄目だよ、仕事があるから」
「フーン」
娘は翌日ママさんと相談して、パパさんとマリオを留守番にすることにした。
かくして、マリオはパパさんと2人(一人と一匹)で留守番することになった。
留守番の初日、パパさんは朝御飯をそそくさと食べたり、マリオに餌を食べさしたりして出勤していった。残されたマリオは自由に廷内探訪をする。部屋の戸は全てマリオが出入りできるように開けていった。家中好き勝手に歩き回り、寝たい時に寝て自由気ままな一日を過ごしていたのである。
夕方になって腹が空いても、朝にたっぷり入れた餌が半分以上残っていて、別に不都合はなかった。さすが夜になると、いつもなら家族が居るのに誰も居ないというのは寂しくて仕方がない。
頼りのパパさんも帰ってくる気配はない。
12時近くに、玄関の鍵がガチャッと音がした。マリオは寝ていたが玄関に出てみると酔っ払ったパパさんがふらつきながら靴を脱いでいた。マリオは(遅いぞ、何していたんだ)という態度で寝ていたところに踵を返した。
パパさんは「おい、マリオ」と呼んだ、ふり向きもしない。
「そうか、寝るか」といって歯を磨いてパジャマの着替えもそこそこに蒲団に潜りこんだ。
翌日の朝も前日同様、パパさんはバタバタと出て行った。マリオの食器には山盛りに餌が盛り上がっている。
その日はどういう訳か、訪問者が多くてひっきりなしにチャイムが鳴った。のんびり寝る暇がないくらい多かった。
ひとりで留守番のマリオは心細くなった。夕方にはママさん達も帰るだろうと心待ちにした。夕方になっても誰も帰ってこない。
さすが夜には訪問者はなくなったが、ひとりぽっちのマリオには寂しさがつのる。
頼りのパパさんは相変わらず帰って来る気配がない。食欲も湧かない。
深夜12時をちょっと回った時刻に、玄関の鍵がカチャカチャなった。
(あっ、パパさんだ)マリオは嬉しくなって玄関に飛んでいった。
ふらふらとしたパパさんが入ってきた。
酔眼朦朧としたパパさんに「おっ、マリオ」と声をかけられた。
「ニャーお」と返事をしたマリオは、本当に嬉しくて、嬉しくて、家中を全速力で走り回りながらお腹が空いていることを思い出していた。
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