ー優勝旗ー
次男は野球が大好きだ。
長男も中学時代に野球部に入り、勉強そっちのけで白球を追いかけていたが、中学二年の時、パパ
さんの東京転勤で転校し、レギュラー選出に漏れたため、高校・大学はラグビーに転向してしまった。
次男は東京へ引っ越して、兄の使った道具をいじっている内に野球に興味を持ち、日曜日にパパさん
と社宅の空き地でキャッチボールをしていたそうだ。
小学校入学と同時に都区内のリトルリーグの少年野球を始めた。
素質があったので四年生には内野を守ったり、たまにピッチャーもしていたらしい。
後楽園でリトルリーグの大会に出たこともあるらしい。
チームの監督に「N君は甲子園に行ける素質がある」と褒められたそうだが、盛岡に転校してからは
地区の少年野球に参加した。
上背もあり、六年生になるとピッチャーで四番だった。そして市内の地区対抗戦では、あれよあれよと
勝ち進んで決勝戦まで行った。
決勝戦はお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、パパさん、ママさんのファミリー総出の応援だった。
パパさんが興奮して言うことには、バッタバッタと三振をとり、おまけにホームランまで打ってしまったと
いう。
結果として、次男は予想もしなかった優勝旗を持って帰って来た。
「どうだマリオ、凄いだろう」と鼻高々の次男。
普段は、ファミコンにベッタリで、いつもママさんのお小言を貰っている次男のイメージチェンジだ。
優勝旗は一日ずつ選手の家に貸すそうで、次男は第一号で借りてきた。
白い布がいっぱいぶら下がって、見ているとじゃれてみたくなる。
次男はマリオの気持ちに気がついたのか旗を横にして、目の前でゆさゆさと揺すってくれた。マリオは思い切り飛びついた。
汗臭かったがマリオは嬉しかった。
ートイレー
ママさんが清潔好きで、よくトイレの掃除をしてくれる。南面のテラスに乾かしてから新しい砂を入れ
て、それは快適な排泄環境になる。日だまりの匂いがしてとても気持ちが良い。
たまにだが、ママさんはトイレを乾かしていることを忘れて買い物に出かける。
最初の頃はママさんが帰るまで我慢したが、ある日、日が暮れてもママさんが帰ってこなかった。我慢
の限界を過ぎて何とか始末する必要にかられたが、愛用のトイレが庭にあるためどうすればよいか判
らずにウロウロしていたら、人間のトイレの戸がちょっと開いていた。
専用のくぐり戸がないため入ったことのない部屋だったが、手でくぃっと開けてみると、専用トイレの数
倍のスペースで何となく落ち着くというか、所用を足すには適当な感じがした。白い腰掛け(便器)のよう
なものに乗って見たが、座りが悪い。
腰掛けの裏側へ回って、床の片隅で具合よく排便した。専用のトイレなら臭い消しと便を隠す砂があ
るのだが、床が板のため砂代わりに床を二三度掻いて済ませた。まことに簡便である。
ママさんが帰って来て、「ニャーオ」と出迎えた。
「あ、マリ、遅くなって御免ね」といってキッチンに向かった。
子供たちが学校から帰って来て、最初にトイレに入った娘が言った。
「お母さん、何かトイレが臭いよ」
「何言ってんの、今朝お掃除したのよ」
「だって、臭いもの」
ママさんは「おかしいわね」と言いながら、トイレを見にいった。
「何の臭いのかしら」と独り言をしながら、便器の後ろの片隅にある二~三センチの異形物を発見した。
「あれ、マリオがウンチしている」と言いながら、テラスに乾かしているマリオのトイレを思い出した。
ママさんは怒るどころか、マリオをほめたり、謝ったりした。
揚げ句に、「マリちゃんは偉いネー」と頭をなでてくれた。
マリオはこの家に来た頃のママさんの厳しさを考えると、まずいことをしたと思っていたが思いがけず
ほめられて、ひょっとして良い事をしたのかなと錯覚せざるを得なかった。
その後も気が向くと専用トイレを使わずに、人間のトイレをちょくちょく利用した。
その都度、ママさんは「マリちゃんのトイレは地下室にあるのにねー」と独り言をしな
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